百姓先生はもう、接木を始めていた。
杏の小木に大きな実をつける杏(巨紅)を2か所に接木する。蜂屋柿6本、甘秋柿2本も。接木する小枝の両脇を削り、元の木の先を割って挟み、それをテープで巻いて止め、接木のてっぺんには、ボンドを塗って水分の蒸発を止める・・・という作業を手早く繰り返していく。
私は、巨大な聖護院蕪と人参を20本ほど抜いてから、菜花の蕾を摘んだ。春の菜花は黄色、苦味は冬の間に溜まった毒をデトックスする旬の味。たらの芽、蕗の薹、うど、筍などにも含まれる「植物アルカロイド」は腎臓の濾過機能を高め、新陳代謝を促してくれる。
古木の梅(長束・ナズカ)は、どっしりとした幹に紅い蕾が遠慮がちに寄り添っている。鶯が止まると、春の絵になりそう!
圃場を一回りして、拾い忘れた小枝を両手に集める。
それでも小枝がまだ残っている…と百姓先生はいうが、私には見えない。百姓先生は、果実でも、雑草でも、小枝でも浮いて観えるという。鳥が高所から魚を捕まえたり、虫が好みの花を素早く見つけるように、目的物を見分ける目が発達しているのだと思う。というか、私の動物本能が退化しているのかも。私は写るものを見てるだけ。
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